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ソルガムの育種学研究

 私たちは、ソルガムという作物が、現代社会が抱える課題(例えば、二酸化炭素削減、エネルギー・バイオリファイナリー創出、マイクロプラスチック削減など)を解決する切り札の作物になるのではないか、と考えて研究を進めています。

我々がソルガムに注目している点は二つあります。

​節間伸長制御遺伝子

炎龍HP用s-min.jpg

II. 搾汁液の高糖性

 ソルガムの一部の品種(「スイートソルガム」や「高糖性ソルガム」と呼ばれています)は、サトウキビ同様にとても甘い搾汁液を稈(茎)に蓄積します。この甘さのもとである糖こそが、現代社会の課題解決の切り札となる鍵分子だと考えています。糖はバイオエタノール(BE)生産(お酒作りと原理は同じ)の原料として重要なだけでなく、近年ではバイオプラスチック、高機能繊維、バイオ医薬品の原料としても注目されています。このような石油化学の代替として、生物資源である糖やバイオマスを原料とした製造化学技術は、バイオリファイナリー(BRF)と呼ばれています。世界各国では再生可能エネルギーへの転換を目指し、サトウキビやトウモロコシを使ったBE生産やBRF産業などの新規産業が活発化しています。しかし、作物のバイオマス(主にセルロースなど)のみを用いたBE生産では、セルロースを糖化する必要があり、Life Cycle Assessment (LCA)によれば、エネルギー収支などが釣り合いません。現状でLCAに見合うのは、サトウキビを原料にした場合のみと言われています。しかし、サトウキビは熱帯でしか栽培できません。現状では、温帯でサトウキビの糖からの生産を考えると、輸送に関わるコスト、消費エネルギー、二酸化炭素排出量が上乗せされ、社会実装は厳しい状況です。そこで我々が注目したのは、熱帯~温帯で栽培できるソルガムです。ソルガムの高糖性品種は、稈に蓄積される汁液の糖度が20%近くにもなる品種もあります(これはサトウキビと同等もしくはそれ以上です)。近年、エネルギー作物の候補として、いくつかの大型作物がしばしば話題にのぼりますが、これらの候補の中で高糖性搾汁液を得られるのは、サトウキビと高糖性ソルガムだけです。
​ 私たちは、高糖性遺伝子に興味を持ち解析を進め、高糖性遺伝子座qBRX-6の染色体上の位置を突き止めました。このqBRX-6に加え、高バイオマスに必要な6遺伝子座及び汁性遺伝子座d、計8つの量的遺伝子座(QTL)を、天高に集積し、ついに、高糖性と高バイオマスを併せ持つ新品種「炎龍」創出に成功したのです。

I. 雑種強勢

 バイオマス(草の大きさ)は植物の利用を考えた場合、重要な形質です。草が大きいことは、リグニンやセルロースなどのバイオマスが大きだけでなく、ソルガムのような糖産生作物は糖収量も多くなる点も重要なポイントです。そこで私達は、バイオマスの大きさに注目し、研究を進めています。

 ソルガムは交配の組合せによって、雑種一代(F1)が高バイオマスになる場合があり、それは広義の意味で「雑種強勢」と言われています。写真の中央の植物は典型的なF1高バイオマス品種「天高」で、草丈4~5mほどに生長します。写真の右と左の植物は天高の両親です。不思議なことにこの両親はともに草丈が1mほどしかありません。本当に不思議です。

 これまでこの雑種強勢については、古典的にいくつかのモデルが提唱されてきましたが、DNAレベルで明確な説明はだれもできませんでした。そこで私達は、ゲノムビックデータを駆使して、この摩訶不思議なトリックについて、いくつの、そしてどのような遺伝子がこの現象に関わっているのか遺伝解析を行いました。その結果、驚いたことに、この現象にはおそらく6つの遺伝子が関っており、2つは開花期(つまり節の数)を制御する遺伝子、4つは節間長を制御する遺伝子であることが明らかとなりました(名大トピックス参照)。現在はさらに詳細な解析を行うと同時に、この私達のモデルが正しいか、遺伝学的検証を行っています(JST未来社会創造事業など)。

天高HP_M-min.jpg
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