PLANT BREEDING

GENOME

 ゲノム情報は、いうまでもなく生物が生命活動をするためのデータとプログラムです。植物ゲノム情報の解読は、2000年のシロイヌナズナ全ゲノム配列決定を発端とし、現在では主要な植物の多くは全ゲノム情報が解読されました。この植物ビックデータは、身近な植物だけでなく、最近では現代社会の課題解決によって未来を担うエネルギー・バイオ産業作物まで幅広く蓄積されてきています。

 21世紀に入り、20世紀までには考えられなかった様々な社会課題が噴出しています。例えば、二酸化炭素削減、原子力を代替するエネルギー開発、海洋ブラスチックごみ問題、農業の担い手の減少などです。20世紀まで、植物科学は知的好奇心を満たすため、農学は主に食糧問題解決のために研究を進めてきたわけですが、21世紀に生きる我々は、これらの現在社会の課題解決のために新しい作物研究をする必要があります。ここでは、従来の研究とは異なり、この植物ビックデータをどのように効率よく活用するのかが、重要であり、研究の鍵となるはずです。

 私たちの研究室のキーワードである「育種」は「ものづくり」です。ものづくりとは「作りたい目的」があって作るもの。従来は、例えば、種がたくさん実る、とか、食べておいしいなど、食の課題が20世紀までの育種の主な目的でした。しかし、我々はこの育種の「ものづくり能力」に注目し、現代社会の課題解決に最適化した品種を作りたいと考え始めました。

 それはゲノム情報というビックデータに裏打ちされた、「ゲノムデザイン」という新しいものづくり(植物ゲノム育種)の始まりでした。

 
DNA
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PLANT

EARTH

 植物は、「ヒトがまねのできないこと」ができます。それは二酸化炭素を利用することです。二酸化炭素は温室効果ガスであり、地球温暖化の原因の一つと考えられています。20世紀、ヒトは石炭や石油などを燃料や原料とした活動を増大させ、その結果、二酸化炭素排出量を増加させる結果となりました。そのことが地球環境に悪影響を及ぼすという事を、ヒトが理解したのはごく最近のことです。

 ヒトは「植物ができないこと」ができます。それは考えることです。知恵あるヒトは、二酸化炭素を利用できる植物の能力に注目しました。そして、植物が生産するバイオマスや糖の利用が、地球規模課題解決への一つの鍵と考えています。

 私たちは、この課題を植物ゲノム育種によって解決したいと考え、研究を進めています。例えば、植物が固定した炭素をバイオエネルギーだけでなく、さらに付加価値の高いバイオプラスチックやバイオ繊維などのバイオ製品への利用を念頭に、植物をそれら向けに改良すること(育種)は、課題解決へ向けた大きな一歩となります。そこでは重要農業遺伝子や重要産業遺伝子の同定やメカニズムの解明が必要です。そのためにも植物ゲノムビックデータの活用こそが新品種開発を鍵となります。

 ソルガム(Sorghum bicolor (L.) Moench)は、アフリカ北東部が原産の大型イネ科C4作物であり、日本を含む世界各地で栽培されています。ソルガムは、種子(食用穀物)、搾汁液(食用シロップ)、茎葉(家畜飼料)と、さまざまな部分が無駄なく利用可能で、またそれぞれの目的に特化した品種が育成されてきました。食用としての種子利用においては、コムギ、イネ、トウモロコシ、オオムギに次ぐ生産高世界第5位の穀物でもあります。日本では室町時代以来、種子を食用とするタカキビ、コウリャンなどが栽培され、また、糖汁採取のためサトウモロコシ、トウキビ、ロゾクなどの野生種が栽培されてきた歴史があり、農家の方々にもなじみのある作物です。大規模栽培における栽培体系と機械化収穫も確立しており、現在では、茎葉部分を家畜飼料とする営利栽培が全国で約1万6千ヘクタール行われています。

 私たちは、このソルガムという作物が、現代社会が抱える課題(例えば、エネルギー創出、二酸化炭素削減、マイクロプラスチック対策、新規産業の創出など)を解決する切り札の作物になるのではないか、と考えて研究を進めています。

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炎龍

BIO

REFINEARY

 上記のように、私たちの目的の一つは明確であり、地球規模課題の解決です。例えば海洋に広がるマイクロプラスチックの汚染問題なども、植物由来の分解性プラスチックの研究開発と普及が進めば解決しうる課題と考えます。このためには化学の技術面だけでなく、植物側の育種改良も重要です。つまり、バイオプラスチックなどの原料として最適な、高い糖収量の品種開発は社会実装を考える場合、重要なポイントの一つとなります。サトウキビはこの点で可能性のある作物ですが、熱帯にしか栽培できません。例えば、日本を含む温帯(埼玉県の面積ほどもある休耕地を活用して)で栽培できれば、追加で栽培地が増えるわけですから、食との競合もない、現実的なモデルになります。

 そこで私たちはソルガムに注目しています。ソルガムは熱帯から温帯まで栽培できる系統が揃っています。しかし、これまで高バイオマス品種と高糖性品種はありましたが、その両者を併せ持つ品種はありませんでした。それは遺伝が複雑なため、従来の育種手法ではその育種が困難だったからです。しかし、現代には作物ゲノムビックデータという強い味方が現れました。このビックデータと遺伝学を駆使した結果、私たちはついに両者を併せ持つ新系統「炎龍」(写真)を作出しました(品種登録中)。炎龍はまだまだ試験栽培の段階ですが、温帯地域(例えば日本では本州)でも、サトウキビ並の糖収量を得るスペックを有しています。このことは、植物の改良を通して地球規模課題を解決できる可能性が現実に近づいたことを意味しています。これは、人類が蓄積してきたゲノムビックデータと、ものづくりである育種の組合せに、現代社会の課題解決の実力があることを示した瞬間でもありました。

 

BREEDING

sustainable

society

 「炎龍」のようなソルガム改良品種の作付面積が広がると何が起きるでしょうか。日本の休耕地(埼玉県の面積に匹敵します)に作付されれば、搾汁液はバイオエタノールやバイオプラスチックなどへ、残渣はロールベール化することで家畜飼料へと利用できるはずです。家畜飼料は牛の餌となり、結果、堆肥が得られ、畑に戻ります。つまり、炭素は二酸化炭素から由来し、他の元素はほぼ畑に戻ることになるのです。これは理想的な循環社会と言えます。このような循環モデルは、搾汁糖液が得られ、残渣が家畜飼料となる、ソルガムならではの構図と言えます。

About US

教授
佐塚 隆志

特任助教
​岡田 聡史


学生
D3  1名
M2 1名
M1  2名
B4 2名

技術員 3名
技術補佐員 5
 

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本ホームページの植物、牛、カエル、カタツムリの写真は、名大東郷フィールド(付属農場)のソルガム圃場で撮影したものです。ラボ関係はイメージ写真です。